【戦略論の第一人者】『良い戦略、悪い戦略』リチャード・P・メルト
リーダーが戦略実行に使える強力な手段の一つは、近い目標を定めることである。近い目標とは、手の届く距離にあって十分に実現可能な目標を意味する。近い目標は、高い目標であってよいが、達成不可能ではいけない。
――『近い目標』
戦略理論の第一人者、「ストラテジスト中のストラテジスト」と評されるルメルトが、初めて一般向けに書いたのが『良い戦略、悪い戦略』です!
「戦略」を勉強するなら、最初に読みたい本。
私の個人的な話になりますが、仕事をする上で、極力使わないようにしている言葉が、「戦略」です。
なぜかというと、本来の意味の「戦略」とは違ったニュアンスで使われることが多い気がするからです。
「こういう『戦略』でいきたいと思います」って言っているのを聞くと、
「それって、目標だよね?」「それって、計画だよね?」「それって、やることリストだよね?」って思う場面、ありませんか?なんか、そう思っちゃうと自分で使うことができないですよね。
ですので、私は、本来の意味で使う以外は、なるべく別の言葉で言うようにしています。「戦略」って言葉がカッコよくて、仕事した気になっちゃいそうですしね。
誰に押し付けるわけでもない、ごくごく個人的な習慣です。
って、思っていたら、そんなことをバッサリ斬ってくれたのが、本書『良い戦略、悪い戦略』。読みやすく、わかりやすいので、内容がスラスラと頭の中に入ってきます。
「戦略論」なら、まずはこの1冊!いかがでしょうか。
『良い戦略、悪い戦略』を書いた4つの目的
著者は、ブログ「Strategy Land」に、本書を書いた目的を示したようです。
- 多くの組織で「戦略」と称している代物の化けの皮をはぐこと
- 経済や産業や市場とはちがうところでの戦略も示すこと
- 戦略を立ててるのに安直な近道は存在せず、王道を行くしかないのだと説くこと
- おもしろい本を書くこと
戦略とは、「こうなったらいいなあ」という漠然とした期待を表現するものではなく、難局に直面するなど具体的な課題を前にして行動を指し示すものでなければならない。だから、戦略とはあくまで必要に応じて立てるべきものであって、予算編成とセットにして年中行事よろしく戦略を立てるような慣習はおかしい。(p397)
仕事で、予算編成をやっていた頃を思い出すと、胸に突き刺さりますね。はい。
悪い戦略の4つの特徴
悪い戦略は、以下の4つの特徴があります。
- 空疎である――戦略構想を語っているように見えるが内容がない。華美な言葉や不必要に難解な表現を使い、高度な戦略思考の産物であるかのような幻想を与える。
- 重大な問題に取り組まない――見ないふりをするか、軽度あるいは一時的といった誤った定義をする。問題そのものの認識が誤っていたら、当然ながら適切な戦略を立てることはできないし、評価することもできない。
- 目標を戦略ととりちがえている――悪い戦略の多くは、困難な問題を乗り越える道筋を示さずに、単に願望や希望的観測を語っている
- まちがった戦略目標を掲げている――戦略目標とは、戦略を実現する手段として設定されるべきものである。これが重大な問題とは無関係だったり、単純に実行不能だったりすれば、まちがった目標と言わざるを得ない。
なんか、非常に納得しますよね。
良い戦略とはなにか
端的にいうと、「やるべきことに集中すること」です。これは、本書の中で繰り返し述べられています。
良い戦略は、重要な一つの結果を出すための的を絞った方針を示し、リソースを投入し、行動を組織する。(p22)
良い戦略は重要な課題にフォーカスする。となれば当然、たくさんある課題の中から選びとる作業が必要になる。どれかを選んで残りは捨てなければならない。この困難な作業をやらずに済ませようとすると、ごった煮ができあがってしまう。(p84)
的を絞り込んだ戦略では、明確な目情にリソースを集中させる。そのためには、戦略目標以外からリソースを引き揚げて戦略目標に回さなければならない。これは、選択と集中の必然的な結果である。(p88)
良い戦略の基本構造
本書の一番メインとなっているのは、「良い戦略の基本構造」についてです。
良い戦略には、しっかりした論理構造がある。私はこれを「カーネル(核)」と呼んでいる。戦略のカーネルは、診断、基本方針、行動の三つの要素で構成される。状況を診断して問題点を明らかにし、それにどう対処するかを基本方針として示す。これは道しるべのようなもので、方向は示すがこまかい道順は教えない。この基本方針の下で意思統一を図り、リソースを投入し、一貫した行動をとる。
「診断」「基本方針」「行動」の三つの要素について具体的な内容は、以下のとおりです。
- 診断――状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす。
- 基本方針――診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す。
- 行動――ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。
競争優位を高める4つの戦略
競争優位を高めることで、多くの価値がもたらされます。そのためには、以下の4つのうちどれかを目指す戦略が有効なようです。
- 競争優位を深める
- 競争優位を拡げる
- 優位な製品またはサービスに対する需要を増やす
- 競争相手による模倣を阻むような隔離メカニズムを強化する
それぞれの具体的な内容は、本書をお読みください。
うねりを察知するための5つのヒント
ライバルよりも競争優位に立つためには、時代の変化を捉える必要がありますね。ライバルよりも10%でも多く読み取ることができれば、優位に立てる、と書いてあります。
- 固定費の増加
- 規制緩和
- 将来予想におけるバイアス
- 既存企業の反応
- 収束状態
この5つの動きがヒントになってきます。
ひとつの事例として、新聞業界が取り上げられていました。5の「収束状態」ですね。
業界が収束状態に向かうにつれて、万人向けの発行部数の多い日刊紙は消えて行くだろう。一方、地方紙や専門誌は生き残り、中には発展することも出てくるかもしれない。
したがって、ニューヨーク・タイムズやシカゴ・トリビューンがとるべき戦略は「オンラインへの進出」でも「広告の強化」でもなく、事業の解体だろう。(P267)
ちょうど、「ザ・ハフィントン・ポスト」日本版がスタートしましたが、オンラインメディアについても、触れています。
オンライン・モデルに移行するに当たっては、旧来の大手新聞は専属記者に頼る形態を止め、さまざまなソースやさまざまな書き手からコンテンツを集めてとりまとめるスキルが必要になる。
よくできたオンライン・メディアは、関連記事やブログなどにきめこまかいリンクを提供している。
いまのところ、オンラインの収益源としては広告以外で成功した例はないので、やはり広告に頼ることになるだろう。(p268)
「ザ・ハフィントン・ポスト」を念頭に置いて書いた文章なのかもしれませんね。
戦略思考を鍛えるテクニック
いくつか述べられていますので、まとめてご紹介したいと思います。
- リストを作成する
- 第一感を疑う
- 判断力を鍛える
- テクニック1「カーネルに立ち帰る」
- テクニック2「問題点を正確にみきわめる」
- テクニック3「最初の案を破壊する」
「最初の案を破壊する」っていうのが、仕事していると、なかなか難しいですよねぇ。意識しておきたいところです。
最後に、あとひとつだけ、著者のメッセージを紹介して、終わりたいと思います。
群れの圧力は、「みんなが大丈夫だと言っているのだから絶対大丈夫なのだ」と考えることを強要する。内部者の視点は、自分たち(自分の会社、自分の国、自分の時代)は特別なのだから、他の時代や他の国の教訓は当てはまらないと考えることを強要する。こうした圧力は、断固はねのけなければいけない。現実を直視し、群れの大合唱を否定するデータに目を向ければ、また歴史や他国の教訓から学べば、それは十分に可能である。 (p394)
経営学関連の本の中では、久々のヒット作でした。
書評のまとめ・感想
内容もページ数も、結構ぎっしりな感じなんですが、ぐいぐい引き込まれてあっという間に読み終わりました。わかりやすい内容だったので、疲労感もなく。
わかりやすいのは、一貫したメッセージがあるからかもしれません。
私が昔から感じていた、「戦略」という言葉の一人歩き。本書を読んでいて、なんかスッキリしました。
オススメしたい1冊です。これは。
次に読みたい関連書籍 & オススメ本
本書で登場した本をご紹介します。。まずは、リーダーシップ。ウォレン・ベニスの本はいくつか読みました。
自己啓発系の話がおもしろかったです。まずは、自己啓発の元祖。
マインド本全盛期のときに、最も影響力のあった本。
このようなニューソートを構成する様々な要素を組み替えて生まれたのが、戦略思考だそうです。
で、さらに組織に置き換えた典型が、ピーター・センゲの『最強組織の法則』
そこにつながるのかーっていう、のが個人的には面白い流れでした。
次に読みたいのは、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』。「アメリカで活躍している経営学者は、ドラッカーなんて読まない」っていう話が、気になっています。私もあまり熱心に読まないので・・・。
あとは、三谷宏治さんの書いた『経営戦略全史』も気になっています。
読みたい本が尽きないのですが・・・・、今回はこの辺で!
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