【ヒトラー✕橋下徹】『独裁者の最強スピーチ術】川上徹也
ヒトラーの最大の武器は「言葉」であり「演説」だった。「演説」の力で独裁者になったといっても過言ではない。同じように「言葉」と「演説」を武器にして注目を集めるのが橋下徹だ。
――「ヒトラーと橋下のスピーチ術を比べる意味」
実際の演説の原稿もいくつか掲載されていて、なかなか具体的で面白い本でした。
人を動かすスピーチ術とは
ヒトラーを題材にして、「ストーリーの黄金律」を理解することで、どうやれば人が動くスピーチができるのかを分析しています。
ヒトラーと橋下徹さんを比較する必要があるのかどうかわかりませんが、橋下徹さんのスピーチがなぜ人を動かすのか、その分析が興味深い本書です。
『わが闘争』の演説論
「わが闘争」で述べられているヒトラーの演説論があります。ヒトラーの演説が、どこまで考えこまれているのかわかります。
「大衆の受容能力は非常に限られており、理解力は小さいが、そのかわり忘却力は大きい。この事実からすべて効果的な宣伝は、重点をうんと制限して、そしてこれをスローガンのように利用し、そのことばによって、目的としたものが最後の一人にまで思いうかべることができるように継続的に行わなければならない」(p51)
「最も簡単な概念を何千回もくるかえすことだけが、けっきょく覚えさせることができるのである」(p52)
ヒトラーは、演説する場所や時間にも気をくばった。
特に夕方にこだわった。なぜなら夕方が一般的に人間の心理的バリアが一番弱まる時間帯だからだ。
場所についても同様だ。人の心が動きやすい場所とそうでない場所がある。
一般的に人はまわりに人が大勢いて、その熱気を感じると、自分の心も動きやすくなる。(p53)ヒトラーは、演説の演出や喋り方も場所によって変えた。
狭い限定された場所では短く歯切れのいい演説をしたが、野外などの大規模な集会では演説の内容よりも会場全体の雰囲気を盛り上げる演出に力を入れた。(p54)彼は、『わが闘争』の中で、戦時宣伝は、とにかく主観的に一方的になることが大切だと強調する。客観的な事実など必要ないと。(p73)
これを読んでいると、『わが闘争』を読みたくなってきます。
スピーチのテクニック「ストーリーの黄金律」
本書のメインは、「ストーリーの黄金律」についてです。
つまり、「ストーリーの黄金律」に沿って、ヒトラーの演説は構成されており、それは橋下徹のスピーチでも、同様である、という話のようです。
「ストーリーの黄金律」とは・・・
- 何かが欠落した、もしくは欠落させられた主人公が、
- なんとしてもやりとげようとする遠く険しい目標・ゴールをめざして
- 数多くの障害・葛藤・敵対するものに立ち向かっていく。
この3つの要素がスピーチに含まれていると、人は感情移入しやすく、心を動かされやすく、行動に駆り立てられやすくなる。
神話時代からストーリーを語り継いできた人類が共通して持っている性質だ。(p58)
これは、小説や映画でも、最も基本的なストーリーの作り方ですよね。それをスピーチに応用したのがヒトラーである、と。
実際の演説原稿をもとに、「ストーリーの黄金律」がどのように適用されているのか、具体的な解説が本書では述べられています。
今回の記事では触れませんが、本書の核となる面白い部分なので、興味があったら、ぜひ一度お読みください。
ちなみに、「ストーリーの黄金律」については、『ザ・プレゼンテーション』でも同様のことが書いてありますね。こちらは、もっと詳細に分析されています。
ヒトラーの睡眠術的レトリック
ヒトラーは、「ストーリーの黄金律」以外にも、独自のレトリックを使ってきたそうです。
- 数字の多用
- 最上級表現及び極端な形容詞の多用
- 同じ意味の言葉を、表現を変えて繰り返す
- 二者択一を迫る
理性をもって考えれば、あまりにも極端な二者択一だ。しかし人間はふたつにひとつを選べと言われると、無条件にどちらかを選んでしまいがちなのである。(p93)
独裁者になるためのスピーチ術10ヵ条
ヒトラーが、どのように大衆を心理操作し、扇動してきたのか。効果的なテクニックを一般化してまとめたのが、以下の10ヶ条です。
- 何よりも本人が「熱」をもて
- 自分の政策を心に残るワンフレーズで表現し、それを繰り返せ
- 国を欠落した主人公にしたてあげ、それを救う白馬の騎士を演じろ
- 具体的な政策は語らず大衆に夢を見させろ
- かならず敵をつくれ、その敵をできるだけ巨大化せよ
- 2つのストーリーを交錯させ錯覚せよ
- 聴衆のプライドをくすぐれ!聴衆が心の中で思っていることを話せ!
- 目の前にいる人間の利益になることを話せ
- 強い権力者にはへつらい媚びよ 用がなくなったら捨てよ
- 自分に風が吹いているあいだに、なるべく権限を奪え
本書では、それぞれの項目について、詳しい解説が触れられています。
橋下徹流 人をとりこむスピーチ術10ヵ条
本書後半では、実際の橋下さんのスピーチを取り上げ、ヒトラーとの演説の対比、「ストーリーの黄金律」に沿った分析が展開されていきます。
橋下さんのテクニックを10ヵ条でまとめています。ビジネスパーソンがスピーチする際にも有効とのこと。
- 一人称を「僕」にし、無駄な敬語は省く
- みなさーんと何度も呼びかけ連帯感をつくる
- 3つ並べる
- サウンドバイトで心にかみつく
- 似た構造をリフレインしていく
- 偽悪的に振る舞う
- 聴衆によって言葉づかいや内容を変える
- 実施する政策が歴史的大事業だと思わせる
- 聴衆を自分たち側に巻き込んでいく
- 一度チャンスを与えてくださいとお願いする
まとめ & 感想
本書は、ヒトラーと橋下徹を題材に、人を動かすスピーチを分析・解説をした本です。
簡単なスピーチやプレゼンテーションでも、応用できる部分も多いのではないでしょうか。
ヒトラーと橋下徹の実際の演説を分析している部分が、非常に面白いので、ぜひご興味ありましたら、ご一読を!
次に読みたい関連書籍 & オススメ書籍
とりあえず『わが闘争』が読みたいです。かなり。
『独裁者の最強スピーチ術』では、一部抜粋されていましたが、その内容が興味をそそられました。
先ほども触れましたが、プレゼンテーションやスピーチのストーリー分析では、『ザ・プレゼンテーション』がオススメです。
図解付きの分析でわかりやすいですし、著名人のスピーチを驚くほど細かく分析しています。「プレゼンテーション」関連の本の中では、良書だと思います。
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