【ハフィントン・ポスト創設者】『誰が中流を殺すのか』アメリカが第三世界に堕ちる日 – アリアナ・ハフィントン
「アメリカ人の5人に1人が失業中か不完全雇用の状態にある。9世帯に1世帯がクレジットカードの最低支払額を払えない。住宅ローンの8分の1が延滞か差し押さえ、アメリカ人の8人に1人が低所得者向けのフードスタンプを支給されている。毎月12万以上の世帯が破産し、金融危機によって5兆ドルもの年金や投資が消えた」
――『第三世界アメリカ』
日本に上陸した「ザ・ハフィントン・ポスト」の創設者アリアナ・ハフィントンさんの著書。
『誰が中流を殺すのか』を読むと、アリアナ・ハフィントンさんが、どういう問題意識を持っているのかが、よくわかります。このタイミングで、ぜひ読んでみてください!オススメの良書です。
アメリカの現実がここにある。
日本にいるとなかなかわからない、悲惨なアメリカの現実を、これでもかというくらい描いているのが、本書『誰が中流を殺すのか』です。
エリートだけが潤い、今まで存在していた「中流層」が消えていく。読んでいて怖くなるくらいの、二極化が進むアメリカ社会。
「アメリカン・ドリーム」はすでに過去のもので、残っているのは「アメリカン・ナイトメア」。
アリアナ・ハフィントンさんは、本書を通じて、アメリカ社会に対しての問題提起を行なっています。「ザ・ハフィントン・ポスト」の通じて、何をしたいのかについても、本書で語られています。
▼本の目次や要約は、アマゾンのページをご覧ください。
誰が中流を殺すのか アメリカが第三世界に堕ちる日
本書で背景を理解してから、日本版「ハフィントン・ポスト」を読んでみると、また別の視点から捉えられるのではないでしょうか。
アメリカで広まる格差
現代のアメリカ社会は、所得間格差が広まる一方で、階層間の流動性が低下しているそうです。
- 1億人近いアメリカ人が、実質所得で親が同年齢のときに手にしていた額を下回る世帯にいる。
- 所得の下位20%の親の下に生まれて、大人になってから上位20%に入るアメリカ人は、7%しかいない。
- 裕福な親を持ちながら大学に行かなかったアメリカ人は、貧しい親を持ちながら大学に行った人より豊かである可能性が高い。
中流層が減っていき、一度落ちてしまえば、這い上がることが難しい社会に段々となってきている厳しい現実です。
中流層はおおむねルールを守り、やがて職を失う。経済界はシステム全体でゲームを楽しむ。ルールを破ってもいいという但し書きが、ルールそのものに盛り込まれている。(p72)
失敗しても、ふつうのアメリカ人は公平な戦いの場にも立てなくなった。(p86)
裕福になればなるほど、たとえば、巨額な節税ができるようになりますし、自分たちが有利になるようなルールを作っていける。
バフェットの有名な話がありますね。バフェットが払った税金は18%、バフェットの会社の受付係が払った税金は30%。
失業、住宅差し押さえ・・・中流層の苦悩
ただでさえ、中流層が消えていく状況だったわけですが、リーマン・ショックが更に拍車をかけます。
MBAホルダーでかなりのキャリアを積んだ人でも、一度失業すると、なかなか再就職ができない。
そして、住宅を失い、蓄えを失い、どんどん困窮していくことになります。
差し押さえ物件が1%増えると、暴力犯罪2.3%増えるのだ。(p92)
大失業時代を乗り切るために「70%が退職後の資金に手をつけ、56%が家族や友人から金を駆り、45%がクレジットカードに頼り、42%が医療費を倹約し、20%が家族や友人と同居し、18%が貧困層向けの無料食堂に通っている」(p101)
中流層にとって世界は明らかに変わった。いま勤労者が期待できることといえば、日払いの仕事をして日給をもらうこと。それだけだ。(p194)
読んでいて、胸が苦しくなりますね、こういうのは。
ウォール街というカジノを閉鎖せよ
本書で大きく取り上げられているテーマのひとつが、巨大な金融機関と政治が結びついて、どんどんアメリカが腐敗していき、中流が消えていく、という話。
ウォール街に対しては、こんな提言をしています。
- デリバティブをはじめとする、すべての耳慣れない「金融商品」を規制する
- 21世紀版のグラス・スティーガル法を制定し、銀行業務と証券業務をしっかり分離する。
- セオドア・ルーズベルトにならって大手銀行を解体する。「大きすぎてつぶせない」という意識を改め、次の危機には納税者を現在のような立場に置かないためだ。(p255)
金融機関以外でも、こんな記述が。
良心なき資本主義がいたる破壊的な(もしかすると致命的な)結末は、もう誰の目にもはっきりしている。利益を上げるためなら市民の健康など何とも思わない巨大製薬会社の倫理なき行動を見ればいい。(p159)
「ハフィントン・ポスト」が目指すもの
新しいメディアが活発になることで、アメリカが第三世界に堕ちていくことが防げるのかもしれない。
つまり、それが「ハフィントン・ポスト」の目指すひとつの方向性なのかもしれません。
「第三世界アメリカ」への転落を止めたいのなら、私たちはメディアに監視役と語り手という役割をしっかり果たさせるべきだ。指導者をつねに緊張させ、真実を話させなくてはならない。(p230)
新しいメディアと市民ジャーナリストは、既成ジャーナリストの持つ力――取材した事実を、少数のエリート層を超えて伝える――を持っている。そうなるとエリート層は、何かあるとすぐに指摘されるから、隠しとおすことがむずかしくなる。
アメリカの第三世界への転落は、テレビでは取り上げられないかもしれない。だがブログに書かれ、ツイートされ、フェイスブックに書き込まれる。携帯電話のカメラで撮られ、ユーチューブに動画がアップされる。
こうしてスポットライトを当てることで、私たちは第三世界への転落を防ぐことができるかもしれない。(p231)
現状をみるかぎり、本当に効果のある解決策をもたらせるのは政治家ではない。むしろ、何千ものコミュニティーで何かを結びつけ、共有し、創造するためのイニシアチブをとっている何千人もの人たちからもたらされるだろう。(p286)
「ハフィントン・ポスト」のエピソード
最後に、長いですが、「ハフィントン・ポスト」でのエピソードをご紹介したいと思います。
政治がダメ、国ではどうしようもないことでも、人々の善意があれば、何とかなるかもしれない。
「ハフィントン・ポスト」では、そんなエピソードを増やしたい、ということを日本の記者会見でも、アリアナ・ハフィントンさんは、言ってましたね。
2009年秋、ハフィントン・ポストはモニク・ジンマーマン・スタインの記事を掲載した。彼女は2人の娘の母親で、スティックラー症候群を患っている。非常に珍しい遺伝的な難病で、多くの場合に視力を失う。
ほとんど光を失いながら、彼女は視力を保つことができたのかもしれない治療を放棄した。そうすれば彼女と夫は、やはり同じ病気と診断された2人の娘の医療費を払えるかもしれないからだ。
モニクが定期的に必要としていた注射の費用は1回380ドルだ。いくらかは保険でカバーできても、一家は医療費の負債につかりきっていた。自分の治療をあきらめた彼女は「母親なら誰もがそうする」と言った。
スタイン家の記事は読者の共感を呼んだ。支援する方法を多くの人が問い合わせてきた。私たちは、スタイン家を支援したい読者が簡単に寄付できるようなプログラムをウェブ上に作った。1週間もたたないうちに3万ドル以上が集まり、一家は医療費を支払うことができた。(p266)
書評のまとめ・感想
本書は、非常に面白かったです!私の問題意識や関心とリンクする部分があったからかもしれません。
日本にいると「日本はダメ。アメリカは正しい。アメリカを目指そう」という考えが、よく見受けられますよね。
私は、昔からそれに違和感を覚えていました。「日本にも良さはあるし、アメリカだからこその悲惨な状況もある」と思っていたんですよね。
それを克明に描き出したのが、本書『誰が中流を殺すのか』です。格差社会の厳しい現状は、読んでいて苦しくなってきます。
でも、ここで描かれている状況が、日本の未来なのかもしれません。そうならないことを願っていますが。
インターネットがもっと世の中をより良くしてくれるといいですね!本書を通じて、そんな可能性を感じさせてくれました。
日本の「ハフィントン・ポスト」の盛り上がりにも期待したいところです。
次に読みたい関連書籍 & オススメ本
今回は、本ではなく映画のご紹介です。巨大企業と政治の腐敗が描かれている映画です。
企業出身者が政治に回る。そんな状況。農業、エネルギー、金融、色々ありますよね。
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