【超就職難の絶望】『韓国ワーキングプア 88万ウォン世代』ウ・ソックン、朴権一

書評ノート

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韓国の場合、20歳で自分の愛する人と一緒に暮らしたいと考えた瞬間、地獄が目の前に広がることになる。独立など絶対に認められもしないし、独立できる経済的秩序と制度を作ろうともしない韓国型若者システムの中では、金持ちの親をもつ少数の若者を除いた残りの人が独立などしようものなら、普通の市民になることは困難だ。
中等教育とされる高校での教育まで終えた10代たちを待ちうけるのは、愛する人との生活あるいは自分だけの生活といった独立ではなく、絶望と挫折しかないのである。
――『住む場所を見つけてから独立しなさい』

韓国の実態に迫る本。想像以上の内容でした。

韓国の若者が抱える絶望

みなさんは、「88万ウォン世代」という言葉を聞いたことがありますか?

平均月収88万ウォン(8万8000円くらい)という若者たちのことです。大卒でも大半が非正規雇用。超就職難のなか、一部の若者だけが、エリートとして高給を得ることができる社会。

さらに、その社会で生き抜くための教育が組み立てられ、親の所得によって階層化が徐々に進んでいき、勝ち組は勝ち残り、負け組はずっと負け組、という流れが止まらないのでしょう。

IMF経済危機、グローバル化の波が押し寄せて、変容する韓国の実態。想像以上に絶望的な内容で、驚きました。

この10年間の変化を最も総合的で理解しやすいかたちで表現する言葉は、「勝者独占(Winner-Takes-All)」である。(p91)

日本の未来も、こんな風になるのでは、と考えながら読むと、明るい気持ちでは読めませんね。

▼目次・要約や著者情報は、楽天のページをご覧ください。
韓国ワーキングプア88万ウォン世代

「世代内競争」だけではなく「世代間競争」も

88万ウォン世代は、超就職難の世代なわけですが、競争は、就職のときだけではありません。

激烈な競争の中で20代がぶつかる根本的な問題は同期同士の競争ではない。彼ら自身はこの争いを自分たちの間の競争、すなわち「世代内競争」と認識しているが、実際彼らの争いは競争の範囲とルールが存在しない無限大の競争、すなわち「世代間競争」に組み込まれている。(p29)

世代間競争が過酷なようです。

代理になることを希望している平社員が課長や部長あるいは局長や長官と競争を行うのが可能なのか?ところがそのような競争が実際に繰り広げられており、これが2007年版勝者独占ゲームの特徴である。(p29)

ただの世代間競争なら、他の国でも見られるかもしれません。ですが、韓国の場合、世代間格差が圧倒的で、絶望感がすごいです。

勝者独占ゲームの特徴は、勝てばよいということである。だが青二才の20代が貫禄のかたまりである40代と50代にどんな技で勝てるのか?それも非正規職がほとんどなのがわかりきった状況で…。(p29)

世代内の競争について

会社の中の同世代「同期間競争」について、韓国から見た日本の記述があります。

「同期間競争」を最後まで押し付けていったのが日本社会だ。東京大学を中心に作られた日本型システムを韓国がそのまま受け入れ、ソウル大学を中心としたシステムを持つようになったのは周知のことである。もちろん外国にも良い大学があるが、特定の大学を中心に社会秩序を作り、そのようにして世代内エリートを再生産するシステムを持ったのは、OECD加盟国の中では日本と韓国くらいである。だが日本のシステムでは年功序列制が補助的に共に動くことによって,世代内競争は世代間競争というコントロール不可能な破局状態にまでは至らなかった。(p106)

ちなみに、88万ウォン世代のでも、さらに階層があるようです。「世代内競争」で、その最底辺に位置づけられている人たちは、一体どんな未来が待っているのでしょうか・・・。

世代内競争で、最も不利な集団を二つ選ぶなら、果たしてどの集団だろうか?基準によって異なるだろうが、高卒以下の集団と女性だろう。高卒で女性ならほとんど絶望的な状況であるといえる。彼(女)らは、青年失業、または高学歴失業というような話題の背後に隠れ、ほとんど社会的なイシューにもなれない不幸な集団でもある。(p192)

本書では、以下のような4つの視点から、世代間・世代内競争について解説がされています。

  • 維新世代と88万ウォン世代
  • 全斗煥世代:386世代と88万ウォン世代
  • X世代と88万ウォン世代
  • 20代対20代:88万ウォン世代同士のバトル・ロワイアル

時代背景と世代に関する知識が得られます。構造的な階層がありながらも、「勝者独占ゲーム」という勝ち目のない闘いに挑まなければいけない、というのが韓国の若者が抱えている問題のようですね。

韓国の資本主義について

13歳~18歳の若者に狙いを定めた「1318マーケティング」というものがあるそうです。

韓国の10代たちは教育装置によって完璧に統制されており、マーケティング装置によって極端に搾取される集団だといえる。この状況は単に10代のたちの問題ではなく、そういった消費を維持し続けてやらねばならない親世代の苦痛にもつながっていく。この点で、韓国の資本主義は本当に恐ろしい。(p78)

本書では、さらに「1318マーケティング」についての問題点が、さらに述べられています。

韓国の若者にむけた、「希望を抱えることの苦しみ」について。

問題は、韓国社会に希望がないからではない。私が考えるに、むしろ希望が余りにも過度だからだ。IMFによる救済金融以降、わずか10年間で、韓国は急激な社会経済的変化を経験した。安定した職業の数が恐ろしいほどに減り、非正規職は記録的に増え、「勝者独占」「選択と集中」が当然視される社会になった。(p299)

そして、日本と似ているなと思った一節。

最後に生き残る一人だけがすべてを独占するというこの哲学は、希望を絶望に変えるというより、希望を「販売」するように仕向ける。書店でもテレビ放送でもそれが確認できる。「成功した20代の話」「1318世代、成功したければこのようにしろ」「20代の財テクへの希望探し」……。(p299)

2パーセント「エリート」と98パーセント「蟻地獄」

サムソン(三星)を代表とする勝ち組と、その他大勢の負け組。

負け組の中になる、さらなる負け組。そのなかの・・・、という「蟻地獄」の社会になりつつあるようです。

「韓国型勝者独占ゲーム」で勝利した「2パーセントの若者」たちは、いつでも存在するだろう。ここから三星グループの李健煕会長の「天才経営論」を思い出すとよい。2パーセントのほとんどが両親から引き継ぐ物的資本と象徴資本を持った者であろうし、まれに超人に近い能力と幸運を持つ者たちも混ざっているはずだ。

残りの98パーセントは、彼らだけで集まり、再びゲームを始めなければならない。誰がまず犠牲になるかを決めるゲームだ。譬えるならば、誰が蟻地獄の巣の最底辺に押し込まれて、蟻地獄にまず最初に食われるのかを決めるのである。(p307)

書評のまとめ・感想

重い内容の本ですが、「読んでよかった」と思った一冊です。

「88万ウォン世代」という言葉を聞いたことがあっても、実態までは知らなかったです。想像以上に

さらに、本書は、88万ウォン世代のみならず、親の世代など、各世代についても詳細に語られているので、韓国全体が抱える問題を知ることができると思います。

あと、私が強く感じたのは、「韓国のエリートが抱えている危機感の凄さ」です。

過酷な世代内競争と世代間競争。若者の超格差社会。負けるわけにはいかない若者たちが、しのぎを削っているわけですよね。

私みたいに呑気に働いているサラリーマンじゃ、「普通にやってたら、敵わないよな」って素直に思ってしまいました。

途上国のエリートが持っているハングリー精神の凄さについて書かれたエピソードを思い出しました。

はたして、韓国の未来、韓国の若者には、救いがあるのでしょうか?

韓国についての見方が変わる一冊だったと思います。

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